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人食いのトナカイ [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

おまえの鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びマンイーター



そう、赤鼻のトナカイは世にも恐ろしいマンイーター、人食い動物だったのです。そうとは知らないサンタのおじさんはトナカイにうっかり食べられてしまいました。めでたしめでたしホーホーホー。

宇宙(コスモ)・赤鼻のトナカイ [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

おまえの鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びました



赤鼻のトナカイにそう言ってくれたあの時のサンタのおじさんはもういなかった。

正確に言えばサンタの仕事に全ての情熱を捧げていたサンタのおじさんはもういなかった。

サンタのおじさんは気付いてしまったのだ。

「わしはもう必要とされていないんじゃないか…」と。



情熱を失ったサンタのおじさんはただのおじさんである。

正確に言えばただの太ったおじさんである。

サンタという事でその恰幅の良さを認められていたという事もある。

しかし今はただのおじさん。しかも太っている。が故に暑がりであり汗っかきである。が故にメガネが常にずり落ちてくる。



ちょっと動いただけで汗をかきメガネがずり落ちてくる。

いくら汗を拭いたところで状況が好転するはずはなかった。なぜなら拭いても拭いても汗が止まらないからだ。

ちょっと動く、汗をかく、メガネずり落ちる、汗を拭く、それでも汗をかく、メガネずり落ちる、汗を拭く、なおも汗をかく、メガネずり落ちる、…

この地獄のような無限ループをかつて世界中から愛されていたサンタのおじさんは日中の間繰り返し続けた。



トナカイたちはそんな姿を苦々しい思いで見つめていた。

聖夜までもう1か月を切っている。いつもなら厳しいトレーニングを積んでいる時期だ。

このままでいいはずもない。トナカイたちは自主トレを開始した。

しかしどうにも張り合いがない。サンタのおじさんのあの厳しい叱責、誰にも触れられたくない極私的な事にまでズカズカと踏み込み、情け容赦のない罵倒で心をズタズタに踏みにじるあの叱責がトナカイたちには必要だったのだ。



「俺たちゃトナカイ

ソリを引くのが仕事さ



どうしちまったんだよ、サンタのおじさんよぉ…」

トナカイたちの目に涙が溢れていた。



聖夜まであと1週間。サンタのおじさんの憂鬱は治まる気配はなかった。

これといって気晴らしになるものもなく、戯れにSNSなどをのぞいてみてもそこに垂れ流されるどす黒い人間の本性にあてられ余計に滅入るだけだった。

「この世界にわしは必要なのだろうか…」

サンタのおじさんの目にも涙が溢れていた。



ついに聖夜当日。昼を過ぎてもベッドから起き上がってこないサンタのおじさんに業を煮やした赤鼻のトナカイが寝室に押し入った。

ブヒヒ、ブヒヒと鼻息荒く詰め寄ってもおじさんは頑なに心を閉ざし虚ろな目で当てどのない虚空の一点を見つめるだけだった。

ブヒヒーン! 赤鼻はおじさんの首根っこを噛み寝室の外へ無理矢理連れ出すと、ある部屋へと向かった。



その部屋には無数のトナカイの写真が飾られていた。

サンタのおじさんの仕事を成し遂げるため命を捧げた多くのトナカイたちの写真だ。

気取り屋、生意気、おっかながり、お調子者におせっかい焼き、頑張り屋さんに泣き虫、怒りんぼう。喧嘩っ早いのもいれば、気立てのいいトナカイ、様々なトナカイたちがここにはいた。しかし、今はもういない。皆聖夜に命を落としたのだ。

ブヒヒヒ。そう言ってサンタのおじさんを残し赤鼻は部屋を後にした。



聖夜の仕事の準備は万端整っていた。残すはサンタのおじさんだけだった。

トナカイたちの吐く白い息だけが立ち上がる静寂の時間。しばらく続いたその静寂を打ち破ったのはもちろんサンタのおじさんだった。

「サンタ・イズ・バック!」トナカイから祝福の声が上がった。

しかしそんな歓迎ムードもお構いなしに姿を現すや否や耳にするのもおぞましい罵詈雑言、悪口雑言をトナカイたちに浴びせ続けた。

トナカイたちは委縮するどころか興奮を隠せず、口から鼻から更に白い息がもうもうと立ち上がった。



サンタのおじさんはこの時点で既にヒートアップしていた。次第に言葉は言葉にならず闇夜を切り裂く怪音波となっていた。
目は血走り、鬼の形相の顔面と服を脱ぎ去った上半身は真っ赤に火照り、滴る汗が蒸気となってサンタのおじさんの体を青白く包み込んでいた。

「出発進行!」恐らくそういう意味の怪音波を発しサンタのおじさんは鞭をふるった。鞭もこの時点で全力だ。

ドバシーンッ! ドバシーンッ! もはや芸術的テクニックとは言えない一撃一撃が致命傷級の破壊力を持った鞭がトナカイたちの肉をえぐり骨髄に衝撃を与えた。

「ピエーッ! ピキギギギーッ!」意味不明の怪音波の高まりとともに鞭の破壊力は増すばかり。ズドバシーンッ! ズズドバシーンッ!

このまま喰らい続けたら死んでしまう。危機感を持ったトナカイたちは巧みに受け流したが、そのスリルがトナカイたちをさらに興奮させスピードは一気に加速した。

トナカイ12頭による全速力は音速を超え、光の速度となり、地球を22周半したところで自分たちを引力から解き放った。



あの聖夜、皆さんが耳にした怪音波、そして御覧になった地上から飛び立っていった光。そう、それは彼らなのです。

今現在もサンタのおじさんと12頭のトナカイは宇宙を飛び続けています。

何百万年後、何億年後のいつの日か夜空に赤い流れ星が見えたら、それはトナカイのピカピカ光った真っ赤なお鼻なのかもしれません。



俺たちゃトナカイ

サンタのおじさんを乗せたソリを引く

どこまでもソリを引く ソリを引く


そうだ俺たちゃトナカイ

サンタのおじさんと一緒なら宇宙(コスモ)の果てまでも

そうさ いつまでもどこまでも いつまでもどこまでも

真説・赤鼻のトナカイ [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

おまえの鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びました



しかしその労働は過酷を極めた。

何しろ一夜で世界中を飛び回るのである。

彼は先輩トナカイに最初に言われた言葉を思い出した。

「死の行進へようこそ・・・」。



その言葉に嘘偽りはなかった。

サンタのおじさんのソリは12頭のトナカイによって牽引される。

だが一度に12頭全員が駆動しているわけではない。

もしもその姿を目にする事が有ったならば確認してみるとよいだろう。

一度に駆動しているのは4頭だけである。4頭で1つののグループを形成し、それが3つのグループに分かれている。

1つのグループが駆動している間は他の2つのグループは休息を取る。

3交代制ならば何も死に至るほどではあるまい。と考えられるがそうはいかない。

その行進の先には死が待っている。だからこそ死の行進と呼ばれるのだ。



サンタのおじさんは普段はたいそう穏やかな性格である。

ぷっくりとした体をデッキチェアに預け、健康的な赤ら顔でパイプをくゆらす。そんな日々を過ごしている。

しかし聖夜まで残り1か月となった時、その表情は一変する。

笑顔を見せる事は無くなり、トナカイたちに容赦のない叱責を浴びせかける。

彼はサンタのおじさんのその豹変ぶりに最初は驚いたが、おじさんのそれは仕事への責任感から来るものである。と先輩トナカイから教わり納得した。

とは言えサンタのおじさんの叱責は凄まじい。トナカイたちのプライドをズタズタにし、ほぼ毎日心が挫けそうになる。

そんな時トナカイたちはこの歌を歌う。



俺たちゃトナカイ

ソリを引くのが仕事さ

引け引けソリを引け


そうさ俺たちゃトナカイ

ソリを引く事だけが生きがいさ

引くんだ引くんだソリをひたすらに



一般的にサンタのおじさんが鞭の名手である事はあまり知られていない。

そのテクニックはもはや芸術的ですらある。

一振りで駆動している4頭すべてに鞭打ち、尚且つ4頭それぞれに強弱をつける事が出来る。

そのテクニックはトナカイたちに言わせれば「これこそが聖夜の奇跡!」という事だった。

トナカイたちはそのテクニックに魅了される。いや虜になると言った方がこの場合適切であろう。

だからこそトナカイたちは走るのだ。サンタのおじさんに鞭打たれたくて走るのだ。



死の行進の死とは何も形容的な意味ではない。正に死そのものである。

一夜にして世界中を飛び回る。どだい無理な話なのだ。

その無理を押し通すためには犠牲が必要となり、その犠牲を強いられるのがトナカイたちだ。

無理を押し通した結果、トナカイたちは次々と息絶えてゆく。

息絶えたトナカイたちへのサンタのおじさんの扱いは非情である。容赦なく切り離され地上へと落下する。

12月25日の早朝、世界各地でトナカイの落下死体が発見されるのはそのためだ。



サンタのおじさんのソリを牽引するには4頭のトナカイの駆動力が必要となる。

当初は12頭のトナカイが4頭ずつ3つのグループに分かれ3交代制で牽引するが、1頭のトナカイが息絶えれば他のグループから補充される。

それを繰り返せば次第に頭数が減り2交代制になり、最終的にはギリギリ4頭で最後まで走り通さなければならなくなる。

その頃のトナカイたちの体力は限界をとうに通り越している。後は気力のみだ。

気力を振り絞らせるためサンタのおじさんの鞭がうなる。

鬼神。鞭をうならせるサンタのおじさんのその様は鬼神の如くであった。上半身裸になりソリに仁王立ちし、天を切り裂く雄叫びをあげ休む間もなく鞭を振り下ろす。
鞭打たれたトナカイたちの鮮血がシャワーとなってサンタのおじさんの全身を真っ赤に染め上げる。
鬼神。その時サンタのおじさんは鬼神そのものとなる。



聖夜が明けようとしている。

今年もまたサンタのおじさんの仕事は成し遂げられようとしていた。

残った4頭のトナカイの中に彼はいた。息は絶え絶えだったが最後に残った僅かな気力だけで足を動かしていた。

しかし、気分は晴れやかだった。落ちて行った8頭の仲間たちへの哀悼の意を感じつつも、この難事を成し遂げられた達成感と充足感が彼を温かく包み込んでいた。

サンタのおじさんにもようやく笑顔が戻り、3頭の仲間たちにも晴れやかで誇らしげな表情が見てとれる。

聖夜が白々と明け始めた。

冬の眩しいほどの朝陽が彼たちを迎え入れようとしていた。



俺たちゃトナカイ

サンタのおじさんに鞭を打たれてソリを引く

鞭を求めてソリを引くソリを引く


そうだ俺たちゃトナカイ

俺たちの血でサンタのおじさんを真っ赤に染め上げる

赤く染め上げる赤く赤く染め上げる
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