So-net無料ブログ作成

ワサビダペロ [ペロ]

俺の名前は和寂田嵐士。わさびだあらしと読む。どうやらご先祖様がワサビ田の近くに住んでいたらしい。というのが親戚筋の間でのもっぱらの説となっている。

ちなみに父方の祖母の名前はツン。和寂田ツン。何の因果で和寂田家に嫁いできてしまったのか。ばあちゃんが和寂田の名前を背負ってからの50有余年の人生を思うとなんだかやるせなくなってくる。

そういうこの俺もこの名前では苦労をしてきた。
それは小学生生活の初日から始まった。クラス内で初めて先生に「和寂田嵐士くん」と呼ばれた時だった。
「ワサビだ辛子! ワサビなのに辛子!」と大声で叫ぶ奴がいた。
太郎だ。俺の右2列横4列前に座っていた太郎がギャハギャハ笑いながらそう何度も何度も狂ったように叫んでいた。

「辛子ーっ!」
「辛子じゃねえっ!」

「はーい、辛子くんがいいと思いまーす」
「辛子じゃねえっ!辛くねえっ!」

「おうっ辛子!」
「辛子じぇねえっ!黄色くねえっ!」
太郎とはこういった不毛なやり取りを出会ってからかれこれ20年以上も続けてきた。

それを苦労と言えるのかは分からないがそんな事を延々と繰り返しているとふと荒涼とした大地にいる様でしんどい気分になる事も確かに有る。
しかし俺よりも不憫なのは妹の玲子の事だ。
和寂田玲子。太郎は俺と出会った時と同様「ワサビだカレー粉!ワサビなのにカレー粉!」とギャハギャハ笑いながら何度も何度も狂ったように叫んだ。
太郎には悪気はないのだ。そういう天真爛漫な奴だという事は十分に分かっていたし、妹も意味が分かっているのかいないのかキャハキャハと楽しそうに笑っていたし。

むしろ俺は自分を呪った。俺がワサビだ辛子だから妹がワサビだカレー粉と呼ばれてしまうのだと。
いかにすればこの事態は解決するのか。俺はその事を真剣に考えた。
ツンばあちゃんは和寂田家に嫁いできたためにワサビだツンとなった。ならば妹が他の家に嫁げばワサビだカレー粉から逃れられるのではないか。俺は妹の早期の結婚を真剣に願うようになった。
妹よ、和寂田の名を知らぬここより離れた地で平凡な名を持つ男の元へと嫁いでおくれと。

その妹の結婚式は今日つつがなく行われたが俺の願いは残念ながら叶わなかった。
妹の結婚相手は太郎だった。妹は馬右門堂太郎(ばうもんどうたろう)の嫁として馬右門堂玲子の名を背負う事になる。
「嫁はバウモンドウ玲子だよー」太郎はギャハギャハ笑いながら無邪気にカレールーのCMソングのメロディに乗せて歌う。その無邪気さは出会った頃から変わらないが今はさすがにいい大人なので狂ったようには歌わない。妹はその横でとても嬉しそうだ。

結局の所ワサビだ辛子もワサビだカレー粉も気に病むほどの事ではなかったのだ。ツンばあちゃんの事にしたって不憫に思う事などなかったのだ。
「そうだよなあペロ。和寂田ペロ。」
俺は我が家の愛犬、フレンチブルドッグのペロにそう語りかけていた。ワサビだペロと呼ぶと俺は何故だか鼻の奥がツーンとなってしまうのだが、ペロは俺の顔を見ながらいつもの様にフゴフゴと鼻息を荒くするだけなのだった。


French Black Bulldog (フレンチ ブラック ブルドック)

コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0